インターネット上の仮想空間「メタバース」を、不登校の子どもの居場所として活用する動きが広がっている。自宅にいても、パソコン画面の中の分身「アバター」を操作して、集まった仲間と交流ができる。不登校の小中学生が増え続ける中、文部科学省もメタバースを後押しするが、周知方法や運営する人材の不足など課題も多い。(福元洋平)

ニックネームで

 「今日はしりとりをしましょう」。2月末、東京都渋谷区がメタバース上に設けた教室に制服姿のかわいい男の子のアバターが入ってきた。席に着くと、区のスタッフが声を掛けた。アバターを操るのは、小学3年生の男子児童だ。

渋谷区が運営するメタバースの教室の様子(空間を開設するJMC提供)

 ここは、不登校の小中学生が集まり、交流する渋谷区の「けやき教室」(教育支援センター)のメタバース版。区が昨年11月、現実の学校に通えない子どもたち向けに開設した。平日午前8時から午後6時までスタッフや公認心理師のアバターが常駐。子どもは好きな時にニックネームで入室し、公認心理師に相談したり、他の参加者とゲームで遊んだりできる。男子児童も「直接会うより気楽」と気に入った様子。この教室には登録した子どもしか入れず、常に大人がいるので安心だ。

 不登校の子どもの受け皿としては、自治体が運営する各地の教育支援センターやフリースクールなどの民間施設があるが、自宅から出ることに抵抗感を持つ子どもは多い。細田梨絵指導主事は「素顔を出さず家から参加できるのでハードルが低いようだ」と話す。

国も支援

 メタバースは、ゲームやビジネスの分野で活用が進んだ。教育現場では、コロナ禍で学習用端末や通信環境が整ったこともあり、不登校対策として導入が広がった。

 認定NPO法人「カタリバ」(東京)は、2021年からメタバース上に子どもたちの居場所「room―K」を運営している。現在は、埼玉県戸田市など全国の6自治体と連携し、子どもたちは、スタッフと定期的に面談し、ドリルを使った学習や、イラストを描いて見せ合うなどのプログラムを受けられる。

 カタリバによると、room―Kの利用者はこれまでに約200人。約1年半前から利用する中3の女子生徒は「他の子やスタッフと小説やアニメの話をするうちに、もっと人と話したいと思った」という。先月から週2回、在籍する現実の学校にある相談スペースに通うようになった。

 文科省は昨年3月に公表した不登校対策「COCOLOプラン」にメタバースの活用を盛り込み、自治体への財政支援を行っている。

 東京都教委は昨年度から渋谷区など8自治体と連携して、メタバースを使った居場所を本格的に導入した。今年度は都内28自治体に拡大する予定だ。

周知が課題

 ただ、自治体側からは課題を指摘する声も上がる。

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