伊藤公平塾長

 国立大学の学費を年間150万円に――。文部科学省の審議会で、伊藤公平・慶応義塾長が行った提言が波紋を広げている。奨学金の拡充とセットで学費値上げを主張する内容だが、実現すれば国立大の学費は約3倍に跳ね上がり「低所得層が進学できなくなる」などの指摘が出ている。伊藤氏が今月13日、読売新聞の取材に応じ、真意を語った。

 提言があったのは、今年3月に開かれた高等教育の将来像を議論する中央教育審議会の特別部会。委員を務める伊藤氏は「高度な大学教育を実施するには、学生1人当たり年間300万円は必要」「国立大の家計負担は(その半分にあたる)150万円程度に引き上げるべきだ」と訴えた。

 この提言に対し、SNS上などでは「なぜ私立大の学費を下げるのではなく、国立大の学費を上げる話になるのか」といった批判があがった。

 島田真路・山梨大前学長は、「学費が3倍になれば、収入が低い家庭の子どもに『国立大は門戸を閉ざしている』との、間違ったメッセージになりかねない。大都市の私立大に志願者が流れ、疲弊した地方国立大への追い打ちとなる」と危惧する。

 伊藤氏の提言の背景にあるのは、現状の大学教育への危機感だ。伊藤氏は取材に「AI(人工知能)など科学技術はますます発展する。文系理系を問わず高度な人材を育てるにはお金もかかる」とし、「高等教育に必要な費用について問題提起したかった」と述べた。

 国立大は2004年の法人化以降、国からの運営費交付金が減らされ、人件費や研究費の削減を迫られてきた。一方で、現在の国立大の授業料(国が示す標準額)は53万5800円で、20年近く据え置かれたままだ。伊藤氏は「給付型の奨学金を充実させ、だれもが安心して大学に進学できるようにした上で、払える人には払ってもらうべきだ」と話した。

 経済協力開発機構(OECD)が23年に公表した国際調査では、日本は高等教育段階の私費負担の割合は64%で、OECD平均(30%)の倍以上だ。

 桜美林大の小林雅之特任教授(教育社会学)は「高等教育費を誰が負担すべきかという問題は、授業料だけの話ではない。運営費交付金など公費負担のあり方も含め、どういった形で大学を支えるべきか議論が必要だ」と指摘した。