独自の高校授業料無償化を行う大阪府で今春、約半数の公立高が定員割れになった。一方、私立高は「専願」の割合が過去20年で最高となり、私学志向が強まった。府教育委員会は公立高の志願者確保に向け、試験日程の前倒しを検討するなど対策に乗り出した。(三浦孝仁)
府内の全日制公立高145校で今春、定員割れとなったのは70校に上り、前年度から23校増加した。
定員割れが相次いだ理由の一つは、授業料無償化で私立高の経済的なハードルが下がったためとみられる。府内の全日制私立高の専願割合は前年を約3ポイント上回る31・64%で、データがある2004年度以降で最も高くなった。
府は家庭環境に左右されず進路選択できるよう、10年度に私立高への所得制限付きの無償化制度を始めた。徐々に所得制限を緩和していき、今年度は高校3年生の所得制限を撤廃。来年度は対象を高校3年生と2年生、26年度は全学年に拡大する。
今春に府内の公立中から私立高に入学した男子生徒(15)は「家計への負担を考え、当初は公立への進学しか考えていなかった。受験前に新たな無償化の仕組みを知り、親と相談して選択肢に入れた。制度がなければ、私学進学はなかったと思う」と話した。
定員割れにはこのほか、少子化や通信制を選ぶ生徒の増加、公立高の定員を決める計算式が見直されて今春は定員が全体で400人増えたことも影響している。
府条例では、3年連続で定員割れとなった公立高について、改善の見込みがない場合は統廃合の対象になると定められている。学校関係者は「このまま定員割れが続けば、多くの学校が統廃合の対象になる可能性もある」と話す。
府内の公立中を卒業した生徒の進学先は、公私の比率が年々縮まっている。昨年度は公立高約3万5500人に対し、私立高は約2万2000人。比率は公立高61・8%、私立高38・2%で、公立高の一般入試を3月10日前後に実施する現行の入試制度になった16年度に比べて5・1ポイント縮小した。
志願者を増やすため、府教委は入試制度の見直しを議論している。
6月20日に開かれた府教委の諮問機関の会合では、公立高の一般入試を2月下旬に前倒しする案が示された。早ければ26年度入試から導入する。私立高の入試(例年2月10日)に近づけることで、入試を早期に終わらせたい受験生の負担を減らし、高校側も生徒の受け入れ準備期間を確保できる効果が期待される。
受験科目を絞ったり、部活動の実績を重視したりと、各校の裁量で試験内容を設定できる「特色入試」の導入なども検討している。
ただし、日程の前倒しには「教育課程を早く終わらせる必要が生じる」(府内の中学校長)などの懸念も出ている。
他の都道府県では、奈良県が今年度、世帯年収910万円未満の生徒に対する授業料無償化(年63万円まで)をスタートさせた。全日制の県立高(27校)では今春、前年より5校多い18校で定員割れとなった。県教委の担当者は「大阪の状況もあり、危機感を持っている。奈良でも新たな入試制度を議論しているが、無償化の影響も踏まえて検討しなければならない」と話す。
広島大の杉原敏彦名誉教授(教育社会学)の話
「公立は学費面でアドバンテージがあったが、授業料無償化で特色ある教育や設備が整った私学を選ぶ生徒が増えたのだろう。新たな入試制度の検討と併せて、生徒が何を求めているかを分析し、希望する進路をかなえられる教育を考えることが重要だ」
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高校授業料無償化
=国は2010年度から、公立高の授業料相当額(年間11万8800円)や私立高の授業料を所得に応じて支援している。大阪府では独自に上乗せして私立高の授業料を補助し、24年度から府在住の全生徒を対象に、段階的に所得制限を撤廃。授業料補助の上限額(63万円)を超えた分は、私学側が負担する。文部科学省の23年度の調査では、35都道府県が私立高で独自の上乗せをしている。