先生の声に合わせて、体操服姿の児童たちが跳びはねる。1日、石川県輪島市の輪島中学校で、教室を間借りする小学生が体育の授業を受けていた。児童のズボンは微妙に色が違う。被災した小学校6校がまとまって「合同小学校」となり、在籍校の異なる児童が集まったからだ。
地震で崩れたままの校門を通り輪島中に登校する児童ら。建設中の仮設校舎が完成するまで、輪島市内の6小学校の児童たちが通う(石川県輪島市で)=須藤菜々子撮影
6校は地震後、輪島高校に間借りし、新学期から輪島中に移った。2学期からは市内の小学校敷地に建つ仮設校舎に入る。
児童を取り巻く環境は変わり続けてきた。4年生の男子児童(9)は「友達が増えてよかった」と喜ぶ。小規模校の
鵠巣(こうのす)
小に通っていた椿原君は、3年生まで同級生がいなかったが、合同小では50人以上いる。
一方、6年生の女子児童(12)は「学校まで歩いて行けたのに、今はスクールバス。毎朝20分くらい早く起きている」と話す。
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学びの環境が徐々に整う中、学校に戻れない子もいる。輪島市から白山市に一家で2次避難した中学1年の女子生徒(12)は、白山の中学校に一度も登校していない。突然の転居で友達はおらず、制服もそろわなかったという。
被災した子どもの保護者ら845人を対象に今年3月に行われたアンケートでは、地震後に不登校になったことをうかがわせる回答が少なくとも4件あった。調査した石川県のNPO法人「ワンネススクール」の森要作代表(61)は「生活環境が大きく変わり、適応できない子もいる」と話す。
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地震後、奥能登4市町(珠洲、輪島、能登、穴水)では人口が流出した。今年5月1日の小中学生数は1951人で、昨年同期比で3割近く減った。「一気に学校統廃合が進んでしまうのでは」。輪島市のある保護者は不安を口にする。
輪島市では今年度、小学校全9校で1学年に1学級以下の児童数となった。文部科学省の学校適正配置の手引で、小学校は「1学年1学級以上必要で、2学級以上が望ましい」とされ、これが統廃合を検討する際の目安とされている。
被災した6小学校からなる合同小は一時的な措置だが、統合の試金石でもある。1学年3学級、児童数約340人という合同小の規模は「授業の幅が広がり、子どもが
切磋琢磨(せっさたくま)
できる」という教員の声もある。ただ、10キロ以上離れた自宅からスクールバスで通う児童もいるなど、子どもに負担を強いているのも事実だ。
市教委は昨秋、学校の適正配置を検討するよう有識者らの委員会に諮問している。小川正教育長は「小学生が通える距離を考えると極端な集約は非現実的だが、学校を存続させるにはある程度の規模も必要だ。地域一体で学校の未来を考えるときが来ている」と語る。
和光大の山本由美教授(教育行政学)は「学校統廃合は、単なる数合わせではなく、新たに魅力ある学校をつくるなどして、地域の合意形成を図ることが重要。強引に進めると、人口流出が進む恐れもある」と指摘する。
少子化と、地震による人口流出の二重苦に直面する奥能登。いかに学校を持続させ、教育の将来像を描くか、模索が続く。