小中学生に1人1台配備された学習用端末の利用を巡り、一部の自治体が、端末にアプリを提供するリクルート(東京)に子供の個人情報を直接取得・管理させていることがわかった。一部のデータは、保護者に十分な説明のないまま海外の事業者に委託されたり、一般向けに販売しているアプリの機能改善に使われたりしていることも判明。文部科学省は、自治体の情報管理が不適切だとみて、近く全国調査に乗り出す。
プライバシーポリシーへの同意を求め、自治体を通じてリクルート名で保護者に配布された2022年の文書。同ポリシーにつながるQRコードが掲載されている
政府のGIGAスクール構想の下、自治体は端末に民間事業者の学習用アプリを導入し、アプリを通じて氏名や学習履歴などの個人情報が収集されている。一人一人に合わせた学習が可能になる一方、義務教育の場で使われるため、子供や保護者が情報の提供を拒むことは難しい。
文科省は、子供の個人情報は自治体が主体となって取得・管理するべきだとしている。教育データの利活用に関する留意事項で、自治体に対し、アプリの提供事業者を適切に監督し、海外での情報の保管は「日本の法令が適用されない場合がある」として慎重な対応を求めている。
しかし、リクルートのアプリ「スタディサプリ」を利用する自治体の一部では、同社が、保護者側に自社のプライバシーポリシーへの同意を求めた上で、子供の氏名や生年月日、テスト正答率などの情報を直接取得して管理している。これを自治体に提供し、改めて自治体から情報の委託を受ける形をとっている。
リクルートは、取得した子供の個人データの保管や処理などを、欧米やイスラエルなど計13か国・地域のいずれかの事業者などに委託している。具体的な内容は「開示しない」とするが、メールアドレスを委託することもあるという。
個人情報保護法は、自治体が個人情報を取得する場合は業務に必要な場合に限り、利用目的を具体的に定めるよう義務づけている。文科省の留意事項は「教育データを事業者自身のために利用することは業務に必要とは言えない」としている。しかし、リクルートは取材に対し、一般向けに販売している同アプリの機能改善にデータを使用していることを認めた。
読売新聞の取材では、今年度に少なくとも14自治体が同アプリを導入しており、利用する小中学生は約8万5000人に上る。14自治体の中には、データの海外委託やアプリの機能改善への利用を把握していないところもあり、保護者に十分な説明がなされていないケースもあった。
リクルートは取材に、個人情報の直接取得や海外委託について「法令を順守している」として、問題はないとの見解を示した。「問題があるとの指摘があれば、関係省庁や自治体と話し合って対応したい」ともしている。
一方、全国の小中学校約9500校の端末にアプリを提供するベネッセコーポレーション(岡山)は「子供の個人情報を直接取得することはなくデータも国内で保管している」とする。
個人情報の保護に詳しい森亮二弁護士の話
「子供の個人情報を事業者が直接取得して管理すれば、制約なく使えてしまう。一般向けアプリの機能改善に使うことは自治体業務の範囲を超えた『商業利用』で本来は許されない。保護者が知らないうちに海外に委託するのも不適切だ。自治体とリクルートの情報の取り扱いは個人情報保護法の規定に抵触する可能性があり国は是正させるべきだ」
GIGAスクール構想
2019年末に打ち出され、全小中学生約900万人のほぼ全てにパソコンやタブレットなどの端末が配備された。端末は、授業や宿題、学校側との連絡などに使われている。