東京都心を横切る青山通り沿いの正門からイチョウ並木を進むと、ヒマラヤ杉がそびえる中庭に差し掛かる。周囲の建物の中で、ひときわ新しい一棟が青山学院大のマクレイ記念館だ。2階から上が、青山キャンパス(東京都渋谷区)の図書館になっている。
館内中央の吹き抜けの位置は各階で異なる。閲覧席の周りに観葉植物を配し、落ち着いた空間となっている
6階建ての記念館は今年4月にオープンした。2~4階の中央に大きな吹き抜けがある。ユニークなのは、開放部や階段の位置を各階で少しずつ、ずらしていることだ。
建物外周部に設けられた学習スペース「アイル(教会の側廊)」も学生たちに人気の居場所
4階から下を眺めると、まず3階が見渡せ、所々がまた吹き抜けになっている。そこからのぞく2階の光景は、まるで額縁の中の絵のようだ。各階の閲覧席で学生たちが思い思いに時を過ごす。
文学部教授で図書館長の伊達直之さん(63)は「訪れた学生たちが、お互いの存在を感じ、触れ合える場所にしたかった」と語る。
フロアによって吹き抜けや階段の位置が異なる構造は、上下階の距離感を縮め、行き来してみたいと思わせる。
伊達さんは「低層階で刺激を受け、上層階で学びを究め、得られた知見を再び低層階で他者と共有する。学びを循環させながら学生の成長を後押しする場が、この記念館だ」と説明する。
掲げたコンセプトは「知のスパイラル(らせん)」。記念館の地下と1階には情報メディアセンターが入り、「知と出会う」場と位置付けた。パソコンを備えた教室や映像編集室などを配し、学生は最先端のICT(情報通信技術)を駆使して、まず情報の入手や発信の方法を学ぶ。
図書館部分の2階から4階は「知を
拡(ひろ)
げる」ことに重きを置いた。国内外の新聞と和洋雑誌、文庫や新書が並ぶ。活字から得た知識を学生たちが話し合い、共有することのできるスペースの「ラーニング・コモンズ」も設けられている。
上層階の5階と6階は、「知を深める」空間。専門書や判例集などをそろえ、授業の課題や論文執筆に集中して取り組める個室を配置した。学生はここで一人、文献と向き合い、思索を深める。
法学部3年の今村
天宥(たかひろ)
さん(20)は「参考書や専門書が近くにあって便利。同じように勉強している仲間もいて、刺激になります」。
青山キャンパスの図書館は、マクレイ記念館で3代目。半世紀前に建てられた2代目は老朽化が進み、本や資料の収蔵能力も限界に近かった。
新しい図書館では、最大150万冊が収蔵可能だ。このうち80万冊は4階から6階まで広がる巨大な自動書庫に収めるが、来年度からは学生が操作して自由に取り出せるようにする計画だ。
すぐに手に取れる開架だけでなく、書庫に控える多くの本と出会う機会も確保したい――。そんな願いが伝わってくる。
これからの時代を見据え、「可変性」も意識した。オープンスペースを増やし、しつらえを変えやすくした。社会情報学部教授で情報メディアセンター所長の宮治裕さん(55)は「想定が難しい未来の活動にも対応できる」と話す。
知の欲求にあふれた学生たちの学びを支える環境が、都心に整った。
文・朝来野祥子
写真・佐々木紀明
<至宝>古書店で発見の貴書
江戸時代前~中期頃のものとみられる冊子本「みぞち物語」。名誉教授の佐伯真一さん(71)が古書店で見つけ、大学が1996年度に購入した。佐伯さんは「当時の様々な目録に記載がなく、知られていなかった貴重な作品だ」と語る。
佐伯さんが読み解いた物語の内容はこうだ。「越前(現在の福井県)の長者の娘が都人に恋をした。都人が髪を洗った水を飲むと懐妊し、出産した男児が3歳の時、再び訪れた都人のひざの上に座ると、突如姿を消し、髪を洗った水が残った」
「みぞち」は福井県鯖江市に残る地名「水落町」が由来と佐伯さんはみている。「地域伝承の物語なのか、中国古典を基にした創作なのか。興味は尽きない」と話す。
[学長に聞く]好奇心 満たされる場に…稲積宏誠さん 68
「偶然なのかな」という気もしますが、図書館は初代が100年前に造られ、建て替えは50年前。そして現在の3代目と、半世紀間隔で切り替わってきました。
かつての図書館は、目的の文献を見つけるために行く所でした。今はそれだけでなく、幅広い知を提供し、学生の知的好奇心が満たされる場となることが求められています。
キャンパスの中に「知」の雰囲気を醸し出すことは重要です。グループで学ぶ、沈思黙考しながら学ぶ――。そういう場がようやくできました。キャンパスの学びのハブとなることを期待しています。
■青山学院大
■大学概要 米国人宣教師ドーラ・E・スクーンメーカーが1874年(明治7年)に東京・麻布に開校した「女子小学校」など三つの学校が源流。1949年(昭和24年)に新制大学として開学した。青山と相模原市にキャンパスがあり、11学部・11研究科で計約2万1000人が学ぶ。人と社会に仕え、その生き方が導きとなる「サーバント・リーダー」の育成を理念としている。
■図書館 マクレイ記念館は、学院創立150周年の記念事業で建設された。延べ床面積約1万6700平方メートル。蔵書103万冊に対し、150万冊の収蔵能力を備える。2階には、キリスト教に関係する図書を集めた「シャローム・ライブラリー」がある。青山キャンパスの初代・間島記念図書館は1929年(昭和4年)築で、国の登録有形文化財として現存。相模原キャンパスにも「万代記念図書館」(蔵書84万冊)がある。