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 就活生に向けて「就活の心構え」を話すことがある。伝えたいのは、「就活は受験と違う」ということ。これを実感してもらうのに毎回頭を悩ませる。

 20代前半の学生にとって、人生の大きなイベントと言えば受験を挙げる人が多いだろう。学力試験や内申点、時には面接で点数を競い、上位から順番に合格者が決まる。入学試験は身に染みた制度だ。その経験から言えば、適性検査や筆記試験、面接があり、上位の成績から順番に内定を出していると思える企業の採用選考は、受験にほかならない。いかに効率良く正解を導き出して、ライバルより高い点数を上げるか。大学のキャリアセンターで、エントリーシートや面接の「模範解答を教えてほしい」と相談する学生がいるのは、受験のノリで就活に臨んでいるからだ。

 形は似ているが、就活と受験は全然違う。まず、根本的な違いは、受験生は、学校にとって受験料や、合格後は授業料を払ってくれる「お客さま」であることだ。一方、就活生はお金を払わない。企業は、学生1人あたり平均約100万円の費用をかけて選考し、採用した学生にお金(給料)を払う。つまり、お金を払うのは企業側であり、対価である商品を提供するのは就活生だ。

 ここで言う商品とは、就活生自身であり、企業活動にいかに貢献できるかという価値だ。よく言われることだが、就活とは、自分を商品として様々な企業に売り込む「営業活動」にほかならない。当然、企業は「お買い得」だと思えば採用し、コストに見合わないと思えば「いらない」と言う。勘違いしている就活生が多いが、企業は「一緒に働きたい」と思える多種多様な人材を欲しているのであって、成績が優秀な人材を上から輪切りで選んでいるのではない。試験の成績よりも面接が重視されるのは、偏差値などでは測れない「商品」の中身を知りたいのだ。

 就活を「恋愛」に例えて話したこともある。人を好きになるポイントは、容姿や性格、価値観など千差万別。就活生の志望動機が、仕事内容や福利厚生、給料や知名度、勤務地のように人によって違うのと同じだ。企業の選考基準も同様。入学試験のような唯一の正解などない。自分の「好み」や相手との「相性」は自分にしかわからないし、自分でもわからない時が多い。だから、自己分析が必要だし、相手の「好み」や「性格」を知る業界・企業研究が必須なのだ。

 「結婚」もたとえ話に使った。3年以内の早期離婚は、2000年代は3割あった。性格の不一致などが主な理由だ。実は新卒入社の3年以内に離職率も同じ3割に達する。理由の大半は「(仕事や給料、人間関係が)自分に合わないと気付いた」というものだ。素の自分を押し殺し、相手の好みに合わせて振る舞うと、例え結婚(入社)できても、後で互いが不幸になるのは共通だ。

 ……ということを熱く語るのだが、あまり伝わらない。たいていの学生は「ぽかーん」としたり、消化不良を起こしたような顔をしたりする。「営業」も「結婚」も学生はしたことがない人ばかり。未婚男女の7割に恋人がおらず、3割は付き合った経験がないという調査結果もある。「恋愛」も遠いのかしら。はやりの「推し活」で「就活」を説明できないだろうか。「活」しか合っていないな。悩みは尽きない。

プロフィル
恒川 良輔(
つねかわ・りょうすけ
 1999年入社。就活時は「記者として雇ってくれる会社なら、どこでも働く」を信条に、放送局、出版社、新聞社を受験していた。初任地は札幌。教育部では就活や大学取材を担当している。2019年から2年間、山形支局に赴任。

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