8月下旬に連載した「STOP自殺 #しんどい君へ」のインタビュー企画では、各界で活躍する6人が、いじめや貧困などで苦しんだ過去と、それを乗り越えた経験を語ってくれた。今、悩んでいる子どもたちへのメッセージを、取材した記者の思いと共に振り返る。
「常に一流であれ!」「人間関係は必ず変化していきます」
ラグビー選手 姫野和樹さん(31)
常に一流であれ!
姫野さんは経済的に苦しい環境で育ち、自ら稼ぐようになるまでお金で苦労し続けたという。タックルしてはすぐに起き上がり、攻守にわたって最前線で体を張り続けるスタイルと、そんな過去とがなかなか結びつかなかった。今回、子どもたちを勇気づけようと、「コンプレックスだった」という生い立ちを語ってくれた。
中学時代の恩師の「心を鍛えて、常に一流であれ」という言葉を胸に練習に励み続けた。日本代表の主将にまで上り詰めた今、はたから見たら、困難を乗り越えた成功者なのだろう。でも、「友達と半分に分けた肉まんやアイスよりおいしいものに、今も出会ったことがない」と屈託なく笑う姿は、まるで少年のようだった。「生きてりゃ何とかなるから」という一言には重みがあった。
タレント 井上咲楽さん(25)
井上さんは高校時代に芸能活動を始め、先輩から「何であんな顔で」と悪口を言われた。先輩を怒らせたと悲観したが、「今思うと、気にすることでもなかった。学校は狭い世界だから」と言い切る。
友人関係に悩む若者へ、趣味やアルバイトなどで学校外のコミュニティーとのつながりを増やすことを勧める。「色んな人と関わって」と送るエールは、若者の視野を広げるだろう。
インタビューをした2人とも、思春期のつらい経験を丁寧に語ってくれた。「同じような苦しみを抱える若者を救いたい」という思いが詰まったメッセージが、多くの人に届いてほしい。(宇田和幸)
姫野和樹さんのインタビュー記事は
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井上咲楽さんのインタビュー記事は
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「明るい所に花は咲く」
落語家 桂宮治さん(48)
桂さんは今も他人の顔色をうかがい、気を使って疲れてしまうことがあるという。「そんな僕も僕。個性だから直そうと思っていない」と割り切るが、そう思えるまでに40年以上かかった。
同級生から嫌なことをされても、傷ついた心を隠して笑った。常に誰かと比べて劣等感を抱えていた。取材中、子どもの頃のつらい記憶を、天井を仰いだり、斜め下を向いたりして思い起こし、笑顔も見せながら、誠実に言葉を紡いでくれた。きっと、私にも気を使っていたのだろう。これが桂さんの優しさだと感じた。
「人にひどい言葉を投げかけてしまう人より、相手のことを考えて傷ついている人の方が、僕は大好き」。誰かの何げない一言で落ち込んだ時、この言葉が届き、少しでも気持ちが軽くなるよう、願っている。(猪塚さやか)
桂宮治さんのインタビュー記事は
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「私がいるよ!!」
お笑いタレント 白鳥久美子さん(43)
中高生の頃、容姿にまつわる悪口を言われ続けた白鳥さんは「逃げる」という言葉をよく使った。つらくなったら図書館に逃げ込んだり、吹奏楽や演劇に没頭したり。後ろ向きなイメージがある言葉だが、好きな本や部活の話をキラキラした目で語る姿から、白鳥さんにとって「逃げる」とは、「好きなことを追求すること」という意味があるのではないかと感じた。
高校時代や夢破れて古里の福島へ戻ってきた時、心の支えの一つは「お笑い」だった。土曜の夜、バラエティー番組「めちゃ×2イケてるッ!」を見ると思わず笑ったという。後に、白鳥さんは番組のレギュラーメンバーに。自分を救った憧れの舞台に立ったのだ。
しんどい環境でも、周囲を気にせず、自分の好きなことをやったらいい――。白鳥さんの活躍からは、そんなメッセージが伝わってくる。(山口翔平)
白鳥久美子さんのインタビュー記事は
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「がんばりすぎない!!」
タレント みりちゃむさん(23)
みりちゃむさんは中学時代、ファッション雑誌のオーディションを受けていることがクラスの女子に知られて、無視され続けた。恨み節があふれてもおかしくないのに、「当時、自分の中で直せる部分があったと思う」と振り返った。
この頃、自律神経の不調で思うように登校できなかった。「完治してからオーディションを受けていれば、周りの受け止め方が違ったかもしれない」。きちんと自分と向き合う姿に、芯の強さを感じた。
思春期のつらい過去から、今でも女性との初対面は警戒するという。だからこそ、「無理に好きになってもらおうと頑張らない」との考えに至ったのだろう。
人間関係も含め、何事も、「6割くらいの力加減」で臨むことを勧めてくれた。この考え方が、誰かの救いになればいいと思う。(松本将統)
みりちゃむさんのインタビュー記事は
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「大丈夫!!明日がある!!」
俳優・アーティスト 森崎ウィンさん(35)
9歳の時、ミャンマーから日本へ来た森崎さんは小学校で言葉が分からず、仲間外れにされた。悩んでいる子どもへのメッセージを求めると、「生きてほしい」と言った。その裏には、母国の子たちへの思いもあったのだろう。「爆弾が飛んできたり、地雷を踏んで亡くなったりする国で懸命に生きようとしている。簡単に命を絶たないでほしい」
「決して比べるわけではない」と断った上でそう語る時、言葉は熱を帯びた。
小さな少年が、見知らぬ土地・日本で逃げ場がない中、踏ん張れた根底に何があるのか? 本人は「負けず嫌いだから」と話すが、故郷を思う気持ちも支えになったのだろうと感じた。
「しんどい時は、ちょっとだけ顔を上げてみて」と呼びかけた。そうしたら、自分が知らなかった世界が見えてくるかもしれない――。森崎さんの言葉が心にしみた。(染木彩)
森崎ウィンさんのインタビュー記事は
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子どもの気持ちを受け止める…専門家のアドバイス
子どもから「死にたい」と打ち明けられた時に、周囲はどう対応するべきか。子どもの悩み相談に応じる認定NPO法人「チャイルドライン支援センター」(東京)の向井晶子事務局長は、▽理由や原因を追求せず、「死にたいほどつらいんだね」と子どもの気持ちを受け止める▽「学校は行くべき」など大人の価値観を押しつけない▽目を離さずに寄り添い、子どもの悩みをよく聞き、安心できる環境を一緒に作っていく――など気持ちを尊重することが大切だという。
同センターで子どもが悩み相談に求めることを調査分析したところ、解決策のアドバイスより、「誰かとつながりたい」「話を聞いてほしい」との希望が多かった。向井事務局長は「大人は将来のことを考えて心配するが、子どもがつらいのは『今』だ。体調や行動の変化もSOSのサイン。心配していることを伝え、子どもの悩みに共感する姿勢を示してほしい」と求めている。






