富山県入善町特産「入善ジャンボ
西瓜(すいか)
」を四角にする研究を続ける県立入善高校農業科の生徒に収穫の時が訪れた。テーブルにずらりと西瓜が並び、「立った!!」と歓声を上げる生徒たち。ついに完成かと思われたが、現実も味も、想像ほど甘くはなかったようで――。(吉武幸一郎)
◆生産農家の夢
ジャンボ西瓜の角形栽培は生産農家にとって見果てぬ夢だ。幾度となくチャレンジしたものの、誰も成し得ていない。近年は生産農家が高齢化で減り、栽培ノウハウの継承すら危うくなっている。
そんな中、入善高の生徒はジャンボ西瓜を全国に知らしめようとPR戦略を練ってきた。再び白羽の矢を立てたのが角形栽培だった。「見た目の衝撃度が大きい」と考えたからだ。
初めて生産に挑戦した昨年は、西瓜の爆発的な成長力を前に型枠が変形し、完全な角形にはならなかった。それどころか型枠に張り付いて外れなくなり、食べることもできなかった。
捲土(けんど)
重来を期した今年は生産組合の高見薫・前組合長(71)が立った。打ちひしがれる生徒を支援するため、20年以上続けた自身の栽培をやめて“専属講師”になった。自身も夢見た角形を、生徒と一緒に実現したいと考えた。
2、3年生7人は5月1日に同校の農場に苗を植え、西瓜の栽培を始めた。型枠は強度と外しやすさを両立すべく、厚さ6ミリのポリカーボネート板と鉄を組み合わせた計7個を用意。昨年の反省から、直方体の6面すべてを外せるように改良して臨んだ。
◆「正直に言うと…」
7月23日、ついに収穫の日を迎えた。目の前には型枠にピッタリと収まった西瓜が並び、生徒は計60個あるナットを電動工具で外していく。昨年とは違い、10分ほどですべての面が外れた。西瓜を抱きかかえてテーブルの上に置くと、西瓜は転がらずに自立した。
自立した角形ジャンボ西瓜(7月23日、富山県入善町で)
立派に並ぶ角形西瓜を前に、2年の女子生徒(16)は「角は少し丸いけど、出来は98点。四角くてきれい」と目を細めた。西瓜の皮は厚さ1センチほど。直角にするのは現実的に難しい。また、今回も西瓜は型枠を曲げ、一部は平面にならなかった。
重さは15・7~22・3キロと上々だったが、糖度測定器は7・5度を表示した。普通のジャンボ西瓜は12~13度。暗雲が垂れ込める中、生徒は意を決して三角にカットされた西瓜にかぶりついた。
「えっ……」。生徒たちは一瞬、無言になった。女子生徒は「正直に言うと、まずい。酸っぱくて少し塩辛い。ナスを生でかじった感じ」と苦笑した。
高見さんは「猛暑続きで、型枠内の温度が上がり、サウナのようになったのだろう。遮光ネットを早くかぶせたが、それだけじゃダメだったのか」と肩を落とした。その上で「夏休みの大きな宿題をもらった。若者に夢と楽しさを感じてもらうべく、来年も協力する」と宣言した。
2年生4人は西瓜を「入善スクエアウォーターメロン」と名付け、来年も栽培に挑戦する予定だ。生徒の一人(16)は「想像と違う味でびっくりしたが、来年こそは甘くておいしい西瓜を育てる」と決意を新たにしていた。