シーサー像が出迎える付属図書館。学生は親しみを込めて「学ぶシーサー」と呼んでいる

 ガジュマルやデイゴが茂る南の自然豊かな琉球大
千原(せんばる)
キャンパス(沖縄県西原町)。広大な敷地内に、六つの学部の建物群が街のように点在している。どの学部からも行きやすい中央に構えているのが、3階建ての付属図書館だ。

 正面玄関は2階にある。階段を上ると、魔よけの獅子「シーサー」が対になって鎮座していた。口を開けた1体は閉じた本の上に左足を、口を結んだ1体は広げた本の上に右足をのせている。

 2体を据えた台座には、論語の一節にある「
学而不厭(がくじふえん)
」の文字。日本人で初めてノーベル賞を受けた湯川秀樹博士(1907~81年)が1963年に大学を訪れた際、
揮毫(きごう)
したものを刻んだ。「学び、学び、そして学ぶ。決してあきるということはない」。台座に添えられていた意味を読んで、背筋が伸びる。

 館内に広がる学びの空間を想像しながら、シーサーと別れた。

 今年は戦後80年。2階の奥まった場所にある「沖縄開架資料室」に足が向いた。室内の壁の一部には琉球石灰岩が使われ、柱は沖縄の伝統的な織物「ミンサー」の特徴的な柄で彩られている。中国や東南アジア諸国との交易を記録した琉球王朝時代の古文書の複製や、先の大戦で国内唯一の地上戦となった沖縄戦を経験した住民たちの証言集が並ぶ。

沖縄開架資料室には戦後80年の今年、特に多くの学生たちが訪れる沖縄開架資料室には戦後80年の今年、特に多くの学生たちが訪れる

 閉架資料を含め、沖縄にまつわる蔵書は約5万冊。沖縄戦当時の県知事の働きについてどう教えるかを卒業論文でまとめる教育学部4年の福中
颯生(れお)
さん(21)は「ここに来ると、県史や市町村史で当時の行政の動きがわかり、過去の沖縄戦研究も遡ることができます。週の半分以上は利用しています」と話す。

 資料室を出ると、学生たちの声が聞こえてきた。同じ2階にある議論の空間「ラーニング・コモンズ」からだ。

 国際地域創造学部1年の2人が取り組んでいたのは、SDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた地元の活動をまとめる課題。照屋琉偉さん(18)は地元の沖縄、福栄謙斗さん(18)は奈良の出身だという。照屋さんは「色々な仲間と話すこうした空間があることで、協力して学びに向き合えます」と笑う。

 3階は、一転して静寂が広がる。言語学や生態学など分野別に収めた専門書の書架の間を学生たちが行き交い、目当ての一冊を探す。あちこちに閲覧席が備えられ、本を手に取ってすぐ、腰を落ち着けてページを繰る学生の姿が目に入る。

マンタやウミガメなど海の生き物を描いたパネルマンタやウミガメなど海の生き物を描いたパネル

 パソコンなどの利用を制限した学習エリアは、さらに静かだ。カウンター状の席を区切るパネルには、こだわりがうかがえる。深海をイメージした青一色の中に、沖縄の海の生き物たちを描いた一列に目を奪われた。ひとり思索にふけるのにふさわしい、落ち着いた空間を作り出すことに一役買っている。

 千原キャンパスのある場所は80年前、沖縄に上陸した米軍と迎え撃つ日本軍とが
対峙(たいじ)
した戦闘の最前線だった。造成時には、多数の遺骨が見つかったとの記録が残る。

 「苦難の歴史を経験した土地に立つ大学の図書館で、知識を蓄える。このことはきっと、未来で同じ過ちを繰り返さないという強い思いと行動の礎となる」。館長を務める国際地域創造学部教授の東矢光代さん(58)の言葉は、重い。

 一心に学びと向き合い、仲間と自由に意見を
披瀝(ひれき)
しあう――。そんなことが当たり前のようにできる、今の時代の幸せをかみしめた。

文・美根京子

写真・伊藤紘二

戦災逃れた王朝資料

 琉球王朝時代に八重山地域を三つに分けた行政区画の一つ「
宮良間切(みやらまぎり)
」。トップの「
頭(かしら)
役」を代々務めた宮良家に伝わる日記や絵図を集めた「宮良
殿内(どぅんち)
家関係資料」からは、18世紀後半以降の八重山の治世がうかがえる。国の重要文化財に指定される見込みだ。

 本島の首里王府で行われる頭役任命の際の儀礼や公務の内容を記した「頭役
被仰付候(おおせつけられそうろう)
以来日記」、首里の役人に書状を出す際のスタイルなどをまとめた「
當(とう)
用案文集」からは、当時の王朝の封建的な体制が読み取れる。人文社会学部の麻生伸一教授(琉球史)は「戦争などで多くの歴史資料が消失した沖縄で、王朝時代の離島支配の一端やエリート層の暮らしを知るのに貴重な資料だ」と話す。

[学長に聞く]本当の知性触れられる…喜納育江さん(58)

喜納育江さん喜納育江さん

 琉大時代から英文学を専攻し、図書館で目当ての海外の雑誌や論文を見つけるたびに喜びを感じていました。本を読むことで、小さな沖縄から時代も空間も飛び越え、世界につながるのです。

 著者の人生をかけた研究業績や思いが反映された本は、その時点の知の最終形。図書館は、ネット情報と一線を画した本当の知性に触れられる場所と言えるでしょう。

 知的な伸び代の大きい学生時代に何と出会うかは重要です。図書館で、そばに置いておきたい考え方や表現に出会えるかもしれません。ぜひ、足を運んでみてください。

琉球大

 ■大学概要 連合国軍総司令部(GHQ)が1948年(昭和23年)に設置を決定し、50年に開学。米国施政下の琉球政府を経て、72年の沖縄本土復帰後に国へ移管された。開学当初は沖縄戦で焼失した首里城(那覇市)跡にあったが、学生増などで手狭となり、84年に西原町に移った。人文社会、教育、理など7学部があり、院生を含む学生数は計約7900人。ほかに熱帯生物圏研究センターや
島嶼(とうしょ)
地域科学研究所などがある。キャンパス移転後に建った首里城正殿は2019年に火災で焼失し、26年完工に向け復元工事中。

 ■図書館 延べ床面積約1万平方メートル、蔵書数約86万冊。学外者も調査・研究を目的とする場合やイベント参加時に利用できる。初代館長は戦中、ひめゆり学徒隊を引率し、戦後、琉大教授に転じた故・仲宗根政善氏。医学部のある西普天間キャンパス(宜野湾市)の分館には約10万冊を収める。

■図書館の写真特集は
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